事業報告

部会長対談

「海外貢献と愛国心、雇用問題、対中関係」について

部会長対談の第3回のお相手は、第76代、77代の内閣総理大臣で衆議院議員の海部俊樹氏。海部氏とJCとの結びつきは深く、講演や対談などにもご参加いただいた。今回は「海外貢献と愛国心」「雇用問題」「対中関係」がテーマ。JCに対する思い出や要望を交えながら語ってもらった。

 

出席者(敬称略)

海部俊樹
(1931年産まれ78歳)
衆議院議員(16期)、 内閣総理大臣(第76・77代)、

大蔵大臣(第87代)、文部大臣(第98・108代)、

新進党党首(初代)、自由改革連合代表(初代)、

自民党総裁(第14代)

久保井伸輔
(1972年産まれ36歳)
久保井インキ株式会社 専務取締役
日本青年会議所メディア印刷部会 第47代部会長

 

 

◇海外貢献と愛国心

海部以前、JCの創立10周年の際に講演をしたことがある。その時は、青年海外協力隊という新政策に、JCの皆さんも参加していただきたいという協力要請を願い出た。JC以外にも、日本憲政会の末次一郎さん(故人)や、友愛青年同士会(現(財)日本友愛青年協会)の奥田吉郎さんにも新政策に対する参加をお願いした。青年海外協力隊は、日本のすべての青年団体に応援していただいた。ただ、JCの皆さんからは、正直に言うと、少し次元が違うということで参加しにくい方も少なからずいらっしゃったと聞いている。

久保井私たちの活動の軸は、JCの業種別部会であるメディア印刷部会という組織だが、東京JCにも参加している。東京JCには独自の海外ミッションがあり、青年海外協力隊の意義は理解できるが、まずは自分たちの組織のミッションを完遂してから、経験を積んだうえで、青年海外協力隊でお役に立ちたいと、メンバーは考えている。

海部JCでは我々の協力要請に対し、牛尾治朗さんや山崎富治さんは理解をしてくれた。引き続き、参画をお願いしたいと思っている。

久保井残念ながら、我々一般メンバーのもとにはそのような声は届いていない。JCのOBの方々は、いろいろと考えていると思う。しかし、本当は我々のような一般メンバーや理事が行動しないと進まないとも思う。私も留学するぐらいなら、協力隊として派遣された方がよいと思っていた。しかし、隊員になると必然的に生活レベルを落とすことになるため、正直なところ抵抗はあったし、専門性を持っていないことで逃げ腰だった。

海部かつては、我々が大学に出向いて説得して、理解を得ていただき、応募してもらった。しかし、そのうち評判が良くなって応募者が増えてきた。いまは男性よりも女性の隊員の方が積極的だ。世の中の縮図をみているかのようだ。帰国隊員は3万9000人に上るが、半数以上が女性だ。

 今朝も8時から自民党青年海外協力隊小委員会の会合があって、話を聞いてきた。帰国隊員の話を聞いても、皆がさらに活動を活発化させたいようだ。青年海外協力隊は、日本の外交面でも非常に有効で、眼光紙背に徹すれば青少年の育成にも役立つ政策だと思う。派遣されたメンバーは、本当に立派になって帰国するし、理屈抜きで愛国者になって帰ってくる。

 愛国者とか言うと、すぐ「再び戦争をしたいのか」などと、見当違いなことを言う人も多く、気をつけてものを言わなければならないのだけれど。

久保井私は昭和47年生まれなので、愛国心教育を受けてこなかった。しかし父が昭和9年生まれで、国民学校時代に受けた愛国心教育が本当に良かったと振り返ることがある。

海部私とほぼ同世代だね。

久保井いまの30代もどこで植え付けられたのかわからないが、少なからず愛国心を持っている。昨年のことだが、先人に学ぶといった趣旨で太平洋戦争の激戦地として知られる硫黄島を訪問する機会を頂いた。硫黄島を訪問すると決まった時から、ここで亡くなった人達は何を思って硫黄島へ赴任し、どのような想いで散って行ったのか、その人達の心には何が有ったのかを考えさせられた。戦時中の教育を否定も肯定もするつもりは無いが、硫黄島で私が強く感じた愛郷の思いは愛国心に他ならないと感じている。ただ、日常生活の中でそれをどのように表現すればいいかがわからない。海外に出ていって祖国のために何かできるのかというと、そこまでのパワーを持っている人は多くないと感じる。

海部愛国心とは、教えられるものではない。例えばオリンピックになると、日本人はテレビにかじりついて日本を応援する。これは、だれに教わったものではない。相撲を見ていて腹立たしいのは、日本人力士の成績が振るわず、外国人力士の強さが目立っているということ。私は日本モンゴル友好協会の会長でもあるし、モンゴル建国800周年記念祭の委員長を務めた。そんな立場の人間が語るにふさわしいかはわからないが、日本の国技という以上は、現職の日本人力士がもう少し頑張って優勝に絡んで欲しいと考える。

 申し上げたように、私はモンゴルとは非常に近い立場にある。現地を訪れれば非常に大事にされるし、手厚くもてなされる。でも、それはそれ。相撲は日本の国技だからね。厳しいことも口に出てしまう。昨年、ノーベル賞を受賞した僕のいとこ(小林誠氏・ノーベル物理学賞受賞)の共同研究者である益川敏英さんが、ソマリア沖への自衛官派遣に対して「自民党は憲法を改正して、日本を戦争ができる国にしたいんだろう」と新聞紙上でコメントした。愛知県出身ということもあり、昔からよく知っている人物だったので、それは違うぞと注意してやりたかった。

文部大臣経験者の中にも、同じようなことを言う人がいる。日本社会の中で戦争をやりたいと思っている人などいないはずだ。あなたのお父さんに聞いてごらんなさい。かつて、何が私たちを駆り立てたかというと、この国をよい国にしなければいけないという素朴な愛国心だったんだ。

久保井JCは60年前に「新日本の再建は我々青年の仕事である」との想いの元に故三輪善兵衛氏が発起人となり設立された。その時の想いも、現在の「明るい豊かな社会を築き上げる」との理念も、この国を良い国にしたいという素朴な愛国心から生じたものだ。

海部私が文部大臣になった時は日本教職員組合(日教組)と、ずいぶんとやりあった。槙枝元文さんとか田中一郎さんといった委員長のころは、(日教組は)愛国心教育は反対という立場を明確にしていた。社会党の皆さんの通りだったら、オリンピックで勝った時に何を歌うんだろうか、何を掲揚するんだろうか。私は、国旗は日の丸、国歌は君が代ということを法律で決めるべきと国会で答弁した。学習指導要領の改定時期にあたっていたから、「学校で児童や生徒に身につけるように指導してくれ。歌も歌えない、旗もあげられないというようじゃ駄目だ」と野党とやりあった。

 そのころ、JCから「日の丸・君が代のお話でも結構です。我々も掲げているのだから負けずにやってください」とお誘いを受け、対談や講演を行った。安倍内閣になって、教育基本法が改正された。我々は心願して教育改革特別委員会の委員になって新しい教育基本法を作ろうということになった。日の丸・君が代についても法律に含まれているので、教育現場も少しは胸を張れるようになった。

 自民党としても、50年かけて、ようやく立党の精神に記されていたことが実現できたと感じる。これが現行の教育基本法の制定だ。非常に長い年月がかかった。日本が戦争の道に進むことを危惧する人が多くて、タブーのようになった時期もあった。JCは国旗国歌の問題について、我々と同じ思想信条に従って動いていただけたので高く評価している。

久保井日本JCは全国に700以上の組織から構成されているが、各組織が毎月例会を開催している。一つ共通しているのは、必ず国旗掲揚と国歌斉唱を行っている。我々が所属する業種別部会も例外ではない。

海部JCに新会員が入るたびに教育したわけではないよね。皆が身につけたわけだから、大事にしなければならない。麻生太郎首相は、世間での評判はあまり良くないかもしれない。でも、だれに何を言われても笑みを浮かべながら返答している。私は、あのような態度は総理大臣の資質として、極めて大切だと思う。我々と議論しても、意見を素直に聞いている。特にサブプライムローン問題以降はそうだ。

 私が議員になってからは、米国がくしゃみをすると日本は風邪をひかないよう気をつけろと言われたものだ。最近の米国は、建国の理念を変えてしまったようだ。サブプライム問題も国費を投じて解決することを決めた。

◇雇用問題

久保井米国は自由の国である半面、国民それぞれが責任感を持たなければいけない。日本企業の99%は中小企業であり、この中小企業が日本を支えていると言っても過言ではない。しかし、中小企業の経営は完全に自己責任であり、経営に失敗したからといって助けてくれる政府は存在しない。

海部日本でも評判の悪かった住宅金融専門会社(住専)問題だが、自己責任の問題だから放っておこうと思った。しかし、放っておけば関連する多くの企業が倒産してしまう。何とかするために、6800億円の国費を投じて住専を救った。国民の皆さんに正直にお話しすれば認めてもらえるということで公的資金の投入を決めたが、責任の追及が生ぬるいという指摘もあった。

 最近の米国は、自己責任で解決すべきと主張していた人たちが、日本のやり方が正しいと言い出している。一方、日本経済は、トヨタでさえも赤字を計上している。ワーキングプアが問題になっているが、天下のトヨタ自動車がクビを切ってはいけないよ。豊田章一郎さんにもよく言うんだけれど、結局、このままでは業界がもたないからトヨタやソニーといったリーディングカンパニーが人員削減をしてくれというところから始まって、他社も追従しだした。こうして、季節労働者を切り始めたんだ。

久保井日本を代表するような超大手企業ですら人員を削減しているのだから、中小企業も右へならえしないと生き残れないという法則ができあがった。

海部逆の言い方では、大企業だからと、1社だけ何もせずに雇い続けていると、ピラミッドのすそ野の企業が全部だめになってしまう恐れがあるということらしい。

◇対中関係

海部市場主義についてもサブプライムを契機に変わっていくだろう。以前、北京大学で講演したときのこと。あなたたちの国で一番わかりにくいのは、社会主義、市場経済と話した。社会主義と市場経済は無関係のもので、学生時代は「犬猿の仲」と学んだ。現地の学生に違いについて教えて欲しいと聞いたが、だれ一人として教えてくれなかった。

その代わりに大学の校務主任がこう答えた。「社会主義は心の問題、市場経済は懐の問題だ」。わかりやすく言えば、国民全員がおいしいものを食べなければいけないということだという。理念がわからない。もっとわかりやすく説明して欲しいというと、社会主義・市場経済だと言い出した。その意図をつかめないでいると「日本でも自民党・無所属というではないか」と言ってきた。「・」が大事らしい。社会主義と市場経済は間に「・」があることで友好合作でき、それを実現したのが今日の中国なのだと胸を張っていた。

久保井難しい答えだ。

海部その説明を聞いても、合意はできなかった。ただ、とにかく中国と日本は悠久の歴史があり、未来永劫(えいごう)にお付き合いをせねばならない。腹に一物、背に荷物では仲良くなれないので、思ったことはすべて言って終えた。

久保井一般的な出張で中国に訪れると、皆やさしく接してくれる。反日感情というものも体験したことがない。「・」が入っているから社会主義と市場経済が両立するという論理も、そんな言い方もあるんだなと・・・。

海部中国流の言い逃れだ。政治的に考えれば自由主義は、まだ早いだろう。社会主義で統率しなければ、ばらばらになってしまう。不平不満をなくすには、市場経済でおいしい物を腹一杯食べられるようにすることが大事なのだ。日本にとって中国は、いまや最大の貿易相手国だ。人件費が日本の30分の1だけあって、安価な品物が洪水のように輸入される。安かろう悪かろうという指摘はぬぐいきれないが、低価格のニーズが拡大している。

◇JCメンバーへのメッセージ

久保井JCのメンバーに向けてメッセージやアドバイスがあればお聞きしたい。

海部差し出がましいことは言えないが、JCの中で国の政策で物足りない点や、国の支援が必要と感じることがあるなら、専門の部会で議論していただいてから我々に知らせていただきたい。 現場でやっている人が最も適切な意見を述べることができる。勇気を持って、前進して欲しい。若い人たちの力で切り開いていくことを期待しています。

久保井有り難うございました。